1887

OECD Multilingual Summaries

Health Workforce Policies in OECD Countries

Right Jobs, Right Skills, Right Places

Summary in Japanese

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10.1787/9789264239517-en

OECD加盟国の医療労働力政策

適職、適材、適所

日本語要約

医療従事者は医療制度の要である。自己治療への関心が高く、またEヘルス(インターネット通信を使った遠隔治療や医療情報の交換)、Mヘルス(モバイルを活用した健康情報、医療情報の一体化、一元管理、連携)の役割が高まっているとはいえ、実際に人々に医療サービスを提供しているのは、圧倒的に医療従事者である。今や医療社会福祉部門の雇用は、多くのOECD諸国で雇用全体の10%を超えている。2013年には、360万人の医師、1080万人の看護師がOECD諸国で働いていたが、それぞれ2000年の医師290万人、看護師830万人から増加している。

それにもかかわらず、OECD諸国における医療従事者に関する議論は常にその不足に焦点が当てられており、「ベビーブーム世代」の医師と看護師が今後退職すると人員不足がさらに深刻になると懸念されている。本書によると、OECD諸国はこの退職による人員減を予測して、医療看護の教育プログラムに受け入れる学生数を過去10年増やしてきた。したがって、多くの新米医師と看護師が、いずれ退職する人々の代わりに労働市場に入ることが期待されている。さらに、年金改革その他のインセンティブによって医師と看護師の在職率が高まっていることも、供給の増加にはつながらなくても現状維持になっている。このように考えると、医療労働力に関する懸念は、労働力不足から、適切な技能を持った医療従事者を適切な構成で確保し、適した場所でサービスを提供して人々の医療ニーズの変化によりよく対応することに移っているといえる。

本書は医療従事者の需要と供給に影響を及ぼす最近の動向とOECD諸国が取り入れている政策を分析したものである。医師と看護師が引き続き果たしている主な役割に焦点を当てるとともに、従来からの専門分野の境界を越える努力にも注目している。高齢化社会では、今より多くの人々が1つ以上の慢性疾患を抱えて生活することになるため、将来的に高齢者医療ニーズに対処するには、医療サービスの提供にこれまで以上のイノベーションが必要である。新しい技術と、あらゆるレベルで様々な医療分野に従事する医療労働者の技能をより効果的に活用し、人々がどこに住んでいても医療を効果的に受けられるようにするというニーズが生まれるだろう。

定員枠を設ける政策を将来的な雇用見通しに関する確たる情報によって支えるべき

  • 定員枠政策(様々なプログラムに参加する学生数に年間の上限を設ける)は依然として、政府が医療従事者の供給を予測される需要に合わせて調整し、医療労働力の構成を変える一方で、予算を管理するための強力な政策手段である。しかし、この政策方途はもっとよく活用する必要がある。
  • ほぼすべてのOECD加盟国は、2000年以降、現在および将来考えられる医療従事者の不足の懸念に対処するために、医療、看護教育に受け入れる学生数を増加させている。この結果、今後何年にもわたって、労働市場に入る新たな医学部、看護学部修了者の数が増え、退職していく人々に取って代わることになる。
  • 少なくともオーストラリアだけは、看護その他の大学のプログラムへの定員枠政策を廃止して(医学は例外)高等教育への進学を自由にするという大胆な政策変更を行った。予想通り、2009年にこの政策変更を行ってから、看護学部への入学者数は増加した(2009年から2013年の間に25%増)。しかし興味深いのは、その増加が定員制が導入されていた頃よりも急激ではないということで(2005年から2009年の増加率は40%)、その理由は訓練の受入容量に制約があり、適切な希望者も少なかったことにある。
  • 医療労働力の計画と見込みのある学生の意思決定に不可欠な要素は、将来必要とされる技能に関して確かな労働市場からの情報を得られることである。また、医療労働力計画を立てる上で、異なる分野の労働者間で代替ができるかということを念頭においた、より包括的なアプローチを取って、他の人でも代理が可能な労働者を増やしすぎないことが重要である。
  • 英国、フランス、カナダなどの国々は、一般医が不足するという懸念に対処するために、総合内科専攻の学生の卒業後の研修場所を増やしてきた。しかし、これらの研修所が満員になるほどの医学部修了者を確保することは、容易ではなかった。総合内科を新米医師にとってより魅力的なところにするために、専門医と比較した場合の給与額の差を縮めるなどの補完的な行動が必要とされている。
  • 米国、カナダ、オランダもまた、ナースプラクティショナープログラムのような、看護学の上級教育プログラムで受け入れる学生数を増やしているが、これは「中間」の医療サービス提供者の供給を増やして一次医療の利用しやすさを向上させるためである。複数の評価から、適切な訓練を受けた上級看護師が医療サービスの利用しやすさを向上させ、軽症疾患や日常的な経過観察が必要な疾患などの患者に対して一般医と同程度の医療サービスを提供できることが明らかになっている。上級看護師が以前は医師が行っていた職務を肩代わりすることで、医師の自由時間を増やし、またこれらのサービスのコストを下げることができる。

外国で訓練された医療従事者への依存を減らす

  • 2010年にWHO全加盟国が採択した「保健医療人材の国際採用に関するWHO 世界実施規範」は、諸国に保健人材計画の改善と、特に低所得国など深刻な人材不足に陥っている他の国々の人材育成の取り組みに過度に依存することなく、自国の将来のニーズに対応するよう奨励している。
  • 2013-14年には、海外で研修を受けた医師約46万人、看護師57万人が、OECD諸国で働いていた。これは平均すると全医師数の約17%、看護師数の6%にあたる。これらの海外で研修を受けた医師、看護師の3分の1以上は他のOECD諸国出身者であった。多くの国で、海外で研修を受けた医師の絶対数は2006年から2013-14年の間に増えているが、その割合は減少してきている。これは、国内で研修を受けた医師、看護師の数の方が増加ペースが早いからである。
  • 米国は、絶対値ベースで海外で研修を受けた医療従事者の受入数が他国よりはるかに多く、2013年には20万人以上の医師とほぼ25万人の看護師が働いていた。しかし、米国に移る医師、看護師の流入は約10年前のピーク時よりは減少している。それは、国内で研修を修了した人々、特に看護師の数が増加しているからである。海外で研修を受けた医療従事者で米国で働いている人々の主な出身国は、インド(医師)とフィリピン(看護師)であるが、これら2か国からの新たな流入数は近年急速に減少している。
  • 英国は海外で研修を受けた医療従事者の受入数が2番目に多い国で、2014年には海外で研修を受けた医師4万8000人、看護師8万6000人が働いている。米国と同様に、海外で訓練を受けて英国に移住する医師と看護師の年間の流入数は10年前をピークに減少しているが、その理由は国内での医療関連の教育プログラムを修了した人の数が増えていることにある。しかし、海外で研修を受けて英国に来る看護師の数は最近再び増加に転じており、これは国内の人材だけでは満たせないNHS利用者からの需要が予想外に増加したためである。英国では海外で研修を受けた医師の出身国構成が大幅に変化しており、他のEU諸国、特にギリシャ、イタリア、ルーマニア出身者の数がアジア、アフリカ出身者の数よりも増えている。看護師も同様で、海外で研修を受けた看護師が最近増えているのは、スペインとポルトガルからの移民の増加が主な原因である。
  • 中東欧の新たにEUに加盟した国々の中には、他のEU諸国に移民する医師と看護師の数が大幅に増加したところがある。多くの場合、海外移民はEU加盟以前から始まっていたが、域内移動の障壁が削減された加盟直後から加速した。チェコ、スロバキア、ハンガリー、ルーマニアといった国々ではこの問題に対処するために、厳しい財政状態にもかかわらず、医師と看護師の給与や労働条件を改善することで、「プッシュ」要因を減らす取り組みをしている。

技術を用い、医療提供の範囲を変えて、医療サービスが行き届かない地域に暮らす人々のニーズに応える

  • どのOECD諸国でも、1人当たりの医師数が遠隔農村地域と低所得の都市部でははるかに低い。フランスやカナダなどでは、1人当たりの医師数は都市部と比べて農村部の方が少なくとも2倍低い。
  • 各国は様々な政策を用いて医師の地理的配分を改善して充分な医療サービスを受けられない地域に住む人々に適切な医療を提供しようとしている。その政策には、これらの医療サービスが不十分な地域出身の医学部学生を選ぶ(日本)、このような地域により多くの医師が移住して定着するように様々な種類の財政インセンティブを与える(オーストラリア、カナダ、フランス)といった政策がある。いくつかの国々(例えばドイツ)は、医師が充分にいると見なされる地域で新米医師が開業する自由を制限する規制と、新しい医師が医師の足りない地域に移住することを奨励する財政インセンティブとを併せてを用いている。このような政策構成が、目標の達成に最も効果的なアプローチと言えるかもしれない。
  • また多くの国々は、医療サービスの提供に様々なイノベーションを導入して、医師数の少ない地域に適切な医療サービスを提供するという目標を達成しようとしている。その中には、医師から看護師およびその他の地域の医療専門職に能力を移転する、あるいは離れたところにいる患者と医師とをつなぐ遠隔医療の開発などがあり、カナダ、オーストラリア、フィンランドなどは導入に成功している。

医療従事者の技能をより適したところで効率的に活用する

  • 医療従事者の技能と彼らの職務で必要とされる技能との間には相当なミスマッチがあるという実証がある。2011-12年のPIAAC調査によると、医師の約50%、看護師の40%が自分の職務の一部について技能が足りないと報告している。反対に自分の技能が生かせていないと答えた医師、看護師の割合はさらに高くなっており(医師および看護師の70‑80%)、人材の重大な浪費になっていることが伺える。
  • 技能不足には大きく分けて次の2つの対策が必要である。1) 初期教育研修プログラムのカリキュラムを改変して医療従事者が新たな医療サービス提供モデルの中で求められる新しい技能を身につけられるようにする。例えばチームワークのスキル。2) 専門技能を継続的に開発できるプログラムを用意して、医師、看護師の技能を新たな職務、職場の要求に沿うものにする。
  • 定期的に免許を更新する制度は、医師と看護師がその職業人生全体を通してその技能を向上させ続ける強いインセンティブとなる。2012-13年に医師の専門能力開発を義務づける政策と定期的な医師免許の更新とを結びつけている国は、OECD加盟31か国中わずか12か国である。
  • 上級学位を持つ看護師はそうでない看護師と比べて、自分の仕事に対して自分は技能過剰だと報告する傾向がある。これらのより高い教育を受けた看護師の実務範囲を拡大することで、この人々の持つ技能をもっと充分に活用することができるだろう。
  • 医療従事者の教育と訓練に費やされる公的資金が多額であることを考えると、実地研修をより大幅に認めるといった適切に設計された研修プログラムと職場での人材の有効活用が公共投資への見返りを増やす上で不可欠である。

© OECD

本要約はOECDの公式翻訳ではありません。

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多言語版要約は、英語とフランス語で発表されたOECD出版物の抄録を 翻訳したものです。

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© OECD (2016), Health Workforce Policies in OECD Countries: Right Jobs, Right Skills, Right Places, OECD Publishing.
doi: 10.1787/9789264239517-en

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