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OECD Multilingual Summaries

OECD Business and Finance Outlook 2019

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OECD企業・金融業アウトルック2019年版

日本語要約

エグゼクティブ・サマリー

信頼は、政府や市場、企業を含む組織をよく機能させるため、そしてより幅広く社会全体にとっての基本的要素である。世界金融危機から10年が経ち、国及び世界的に、信頼を回復するための多くの政策とイニシアチブが立案されている。しかし、グローバル化への反発と保護主義の台頭が意味しているのは、金融及びビジネス環境において健全な信頼を支持するために、官民双方の関係者が十分な取り組みを行ってきたのか疑問が残るということである。もし取り組みが不十分だったとするならば、残された懸案にどのように取り組むべきなのか。

こうした背景から、『OECD企業・金融業アウトルック2019年版』では、経済社会的暮らし良さを支援するために企業と金融業に対する市民の信頼を強化する方法を考察している。本アウトルックには、網羅的ではないが、政策当局に具体的な行動条件を提供する5つの視点を収録している。信頼に着目しているほか、第一章では金融市場、第二章では銀行、年金基金などの金融制度、第三章では企業の責任、つまり企業の法令遵守に対する信頼、第四章では平等な競争条件、特に国有企業の高まる重要性とそれに関連する行動リスク、そして第五章ではオンライン市場について論じている。

金融市場における信頼

本アウトルックでは、将来的に金融部門の対する信頼を損なう恐れがあるリスクについて考察している。こうしたリスクには、公的債務、企業債務、銀行債務などが含まれる。これらは金融危機以降の成長を支えてきたが、信用サイクルが満期になり、過剰債務のリスクに懸念が高まっている。本アウトルックでは、金融市場の発展とイノベーションー高頻度取引、暗号資産などーという、金融市場の効率と包摂性を高める一方で、市場を不安定にし損害を与える可能性があるものについても考察している。

金融市場における信頼を強化するために、政策当局は、公的債務管理と、例えばテールリスク・ストレス・シナリオの活用を通じた金融システムの流動性確保におけるリスクを特定し最小化する金融当局の能力に焦点を当てるべきである。市場に基づく金融は、投資ファンドにおける流動性リスク管理を向上させるために、金融安定化理事会・証券監督者国際機構(FSB/IOSCO)の提言をもっと一貫性を持って実施することによっても恩恵を受けられる。市場にストレスがかかる時期には、アルゴリズムや高頻度取引戦略の影響とリスクをより大きく評価して、株価の瞬間的暴落が起こり市場の伝染につながる可能性を抑えるべきである。

金融制度への信頼

人口高齢化、退職後貯蓄の低利回り、低成長、不安定な職業、一部労働者に対する不十分な年金支給といった傾向は、年金制度が労働者の利益を念頭に置いて管理されているという信用と、労働者が退職年齢に達した時にそれが約束した年金額を支払ってくれるという信用を損なってきた。

本アウトルックでは、金融制度への信頼を取り戻すための三つの政策目標を考察している。それは、堅実な年金管理と年金基金の受託者義務の支持、金融消費者保護の拡充、環境及び社会的リスクへの対処である。

この点における出発点の一つは、既存のOECDの政策手段であるOECD私的年金規制のコア原則(OECD Core Principles of Private Pension Regulation)、G20金融サービス利用者保護ハイレベル原則 (G20 High Level Principles on Financial Consumer Protection) 、OECD多国籍企業ガイドライン(OECD Guidelines for Multinational Enterprises)の実施と執行の強化である。この点における政策対応は、高まるデジタル化の課題と、投資戦略に環境・社会・ガバナンス(ESG)の要素を統合するといった金融制度を社会的義務に沿ったものにする必要性にも適切に対処しなければならない。

信頼と企業の責任

企業への信頼の中核をなすのは、企業は少なくとも法令を遵守して事業を行っているという信用である。この信頼は、二つの方法で築かれる。一つは、企業は違法活動を防止する措置を執る必要があるということ、二つ目は違法行為の疑いがある場合、企業はこうした疑惑を法執行機関に報告し、その問題の解決に協力する措置を執るべきだということである。

政府は、こうした活動のための枠組み条件の確立において重要な役割を果たす。その中には、確たる企業責任の枠組みと、協力するインセンティブを確立しそれを有効に実施することが含まれる。進歩はすでに見られる。贈賄防止条約の発効から20年以上経ち、条約締結国は外国公務員贈賄罪に企業の責任を導入しており、最近では法令遵守のインセンティブも取り入れられるようになってきた。グローバルに見ると、国境を越えた企業犯罪の事例が増加し複雑さも高まっており、各国の企業責任制度間の協力、調和のために更なる取り組みが求められる。

信頼と平等な競争条件

国有企業の重要性が、国内及び国際市場において高まっている。国有企業が汚職のリスクに晒される危険が高まっていることに有効な政策対応を行い、信頼を構築して企業間の平等な競争条件を確保する必要がある。OECDのデータによると、国有企業は他の企業にはない汚職リスクに直面する。特定産業部門、特に製鉄業に従事する国有企業は、民間の同業者と比べて利益を上げていないが、それでも廃業が少ない傾向がある。同様に、国有企業には特定の汚職形態に関わるリスクが民間企業より高い。また、信頼性への懸念から、特定プロジェクトからの離脱や企業パートナーとの関与停止などが、民間企業よりも起こりにくい。

こうした国有企業の「信頼喪失」の可能性に対処するために、政府は、汚職防止と、高潔性及び法的、規制的、政策的枠組みについて、国有企業にも民間企業と同等の責任を負わせなければならない。そのためには、政策当局は透明性を高め、国有に関わる投資規制を改善し、国有企業の汚職との闘いに焦点を当てるべきである。こうした方向性には、最近採択されG20で支持された国有企業の贈賄防止と透明性に関するOECDガイドライン(OECD Guidelines on Anti‑Corruption and Transparency in SOEs)における政策的助言が反映されている。

オンライン市場における人々の信頼

オンライン市場は、新しくより安価な商品を提供することで消費者に便益を提供している。しかし、オンライン市場は消費者の信頼を得られた場合にのみその可能性を実現できる。商品情報の入手と評価が難しければ、市場は消費者のニーズに応えられないということになる。消費者は、信頼築くためにブランド名のような質の曖昧な指標に頼らざるを得ない。そしてそれが今度は、企業の自社製品を改良するインセンティブを制限し、新規参入を阻むことになる。または、消費者がオンライン市場を利用しなくなる可能性もある。

オンライン市場に信頼環境を構築するには、公平な競争、消費者保護、データ保護に携わる当局と、その他の規制当局からの分野横断的(で越境的な)アプローチが必要である。消費者がオンライン市場で有意義な選択ができるようにするために、法律と規制の執行と啓蒙活動の双方が必要で、そうすることによって可能な限り最良の取引ができるように競争を促進することができる。

© OECD

本要約はOECDの公式翻訳ではありません。

本要約の転載は、OECDの著作権と原書名を明記することを条件に許可されます。

多言語版要約は、英語とフランス語で発表されたOECD出版物の抄録を 翻訳したものです。

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© OECD (2019), OECD Business and Finance Outlook 2019, OECD Publishing.
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