1887

OECD Multilingual Summaries

OECD Science, Technology and Innovation Outlook 2016

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OECD科学・技術・イノベーションアウトルック2016

日本語要約

世界は近い将来、全く別のものに変化するだろう。社会経済、環境、技術、政治の深層的傾向、いわゆる「メガトレンド」から生じる強力な力が経済社会の動向に影響を及ぼし、しばしば想定外の方法で我々の将来を形成しつつある。これらの多元的で相互補完的でありながら時には相反する要素を持つメガトレンドは、技術革新や科学的発見の方向性と速度に影響を与え、将来の科学・技術・イノベーション(STI)活動と政策に影響を及ぼすだろう。

メガトレンドは将来のSTI能力と活動を形成しつつある

将来の研究開発課題、将来のイノベーション需要の範囲と規模を形成すると見込まれるのは、高齢化社会、気候変動、医療問題、デジタル化の進展などである。新たな市場が誕生し、新たな技能ニーズや新たな成長、雇用機会が創出される可能性が高い。循環型経済などによる持続可能な成長への新たなアプローチが進展しつつある。

新興諸国の急速な経済発展も、多国籍企業の越境活動やグローバルバリューチェーンの分断化と相まって、STI活動の世界的な拡散を後押しするだろう。人材と資源を巡る獲得競争が世界中で激化し、新たな知識の生産と普及も強まっていく可能性が高い。既存の研究開発拠点はこの競争の恩恵を受け、競争力の劣る拠点を犠牲にすることで、最高の人材と資源を一段と集結させる可能性がある。

しかし、STI活動は資源の制約を強く受ける可能性がある。先進国、新興国ともに成長が不十分になるという予測と、政策の優先順位と課題が競合していることで、利用可能な財源が制限される恐れがあるためである。この結果、将来の課題に取り組むSTIの役割が損なわれる可能性がある。同様に、人口の高齢化と移民のパターンの変化も、STI技能の入手可能性を不確かなものにする。

メガトレンドは政策対応を必要とする喫緊の問題を提起するが、政府の介入能力は大幅に制約される可能性が高い。例えば、多額の公的債務、国際安全保障上の脅威の高まり、社会統合が弱まる可能性、国家の権限や実行力に挑戦する有力な非国家的行為者の台頭などである。

技術の成果が不確かであることが、社会を混乱させる

将来のSTI分野における開発は、メガトレンドの活力を加速させたり、強めたり、逆転させたりする可能性がある。しかし、これらの開発は、我々が直面する課題への解決策を提供してくれる可能性もある。例えば、グローバル化は通信技術や輸送技術の進歩によって一段と進めやすくなり、所得の伸びはSTIの開発に主導されるようになる。また、CO2排出量の削減は、新しく、よりクリーンなエネルギー技術の開発に左右される。さらに、医療の成果の改善と平均余命の伸びは医療技術のイノベーションに大きく依存するようになる。

一方、新興技術にはいくつものリスクと不確実性があり、重要な倫理上の問題が浮上する場合も多い。STIの開発は、イノベーションの普及と技能の習得なくしては格差の増幅に繋がりかねない。人工知能やロボット工学の開発は将来の雇用に、IoTやビッグデータ解析はプライバシーに、3D印刷技術は知的財産の侵害に、合成生物学はバイオセキュリティに、そして、神経科学はヒトの尊厳に対して、それぞれ懸念を提起する。

それでも、新技術の台頭はいくつもの応用分野で幅広く影響を及ぼすと考えられており、その開発と探究を他の「新しいことを可能にする実現」技術(“enabling” technologies)に依存することがある。技術の収斂と組み合わせは、学際的な研究形態と技能訓練によってさらに後押しされる。

公的研究は、自らの移行を管理することができれば、中心的役割を果たせる

公的研究は、知識と技能を開発して国全体に普及させる上で、今後も極めて重要な役割を果たすだろう。しかし、公的研究にも変化が訪れる。新たな技術は研究の新時代を切り拓きつつある。ビッグデータとアアルゴリズムは膨大なデータを生み出すとともに、科学的方法、手段、技能要件を変化させ、新たな研究分野を創造しつつある。

次のフロンティアは開かれた研究(open science)である。オープンデータアクセスの実践はますます広がっている。研究データの共有と再利用を奨励すれば、公的資金の費用対効果を高めることができる。科学は施設単位の取り組みではなくなりつつあり、市民が学術団体と並んで自らの研究を行うようになっている。しかし、より開かれた研究の持つ潜在的な可能性を十分に実現するには、学術文化の根本的な変革が必要となる。

資金調達の問題も浮上する。研究開発向けの公的支出の割合が高まる可能性はなく、大学向けの公的助成はすでに多くの国において顕著に減少している。公的研究は、慈善団体や民間財団からの資金を含め、新たな資金源を探し出す必要に迫られることになり、これが公的研究開発の将来的な課題に影響を及ぼすだろう。研究職も、特に女性にとっては依然として不安定なものであり、将来世代の研究者を惹きつける上で悪影響を及ぼすだろう。

現在、政策の焦点は依然として直接的な経済的必要性と効率アップに置かれている

先般の金融危機はSTI活動に大きな打撃を与え、その後の回復は依然として鈍い。イノベーションと起業にとっての財政的な条件は、特に中小企業にとっては厳しい状態が続いている。

OECD諸国、非OECD諸国とも、企業のイノベーション能力に対する支援を極めて重視している。多くの国々は、企業支援プログラムを強化し、利用しやすさや費用対効果の向上に努めている。一部の国々の政府は、財政的インセンティブや公的調達の広範な利用などによってイノベーションを支援する「支出を伴わない」アプローチを採用している。多くの国々は一連の政策の調整も行い、中小企業や新企業のグローバル市場への参入を特に支援している。企業と公的研究との間の公的助成配分にはトレードオフがあることを示す実証が増えており、企業部門向け予算の割合が高まっている。

それにもかかわらず、状況は国によって異なり、低成長国と高成長国の格差は拡大しつつある。欧州内においてすら、投資結果を分析すると各国間に顕著な差があり、欧州連合の統合に対する脅威が高まっていることが分かる。各国政府は自国のSTI政策構成の効率性と影響力の改善に努めており、政策の根拠を強化するための政策評価と新データインフラを重視するようになっている。

政府は、STIの形成と活用に向けて、より広範な社会との連携をますます強めるだろう

政府は、より「責任ある研究とイノベーション(responsible research and innovation, RRI)」政策を採用することにより、新たなSTI開発を巡るリスクと不確実性に対する管理を強化している。RRI原則は、政策課題、助成プログラム、ガバナンスの仕組みなどへと広がっており、イノベーション政策の策定過程に倫理的な考慮と社会的な考慮を組み込んでいる。

© OECD

本要約はOECDの公式翻訳ではありません。

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多言語版要約は、英語とフランス語で発表されたOECD出版物の抄録を 翻訳したものです。

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© OECD (2016), OECD Science, Technology and Innovation Outlook 2016, OECD Publishing.
doi: 10.1787/sti_in_outlook-2016-en

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