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OECD Multilingual Summaries

OECD Science, Technology and Industry Outlook 2014

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OECD科学・技術・産業アウトルック2014

日本語要約

危機の後

景気低迷と緩やかな回復ペースは、イノベーションとイノベーション政策に著しい影響を及ぼしている。OECD諸国における2008~2012年の研究開発(R&D)費総額の伸び率は1.6%で、2001~2008年の伸び率の半分にとどまった。

OECD各国政府が直面している課題には、経済成長の停滞や差し迫った社会・環境問題などがある。しかし、その対応に利用できる公的資金はほとんどない状況にある。財政健全化の影響はすでにグリーンR&D予算に現れている。したがって、各国政府は、こうした新たな環境に適応しつつ、一連の政策の中でのイノベーションの地位を引き上げるよう、イノベーションに関する「新政策(ニューディール)」に乗り出している。緩やかなGDP成長と逼迫した政府予算という現在の見通しは、社会目標の達成に向けてイノベーションを利用していく戦略が今後数年は続くことを示している。

情勢の進化

中国は、2001~2008年に比べると伸び率こそ鈍化しているものの、2008~2012年にもR&D支出を倍増させており、今では世界のR&Dの主要な牽引役となっている。「中所得国の罠」に陥らないよう、ブラジルやインドなどの新興国もイノベーションを経済成長の主要な原動力にしようとしているが、そのためには自国のイノベーション能力を高めなければならない。欧州諸国についてはますます傾向が分散し、自国のR&D支出の対GDP比目標に向けて前進している国もあれば、一段と出遅れている国もある。

科学、技術、イノベーションの分野におけるグローバル化と相互依存の深化を受けて、各国のイノベーション政策は、価値と雇用創出に最も貢献するイノベーション関連部門(R&Dや設計など)を誘致しようと、グローバルバリューチェーンにおける自国優位の強化により一層努めている。特に貴重かつ流動性が高いのは人材その他の知識資産であり、各国は、海外直接投資を奨励する国家的な研究の「生態系」や新企業・中小企業のグローバルバリューチェーンへの統合を通じて、人材などの獲得と定着を競っている。特に、外国人研究者の雇用機会、ブランド化活動、就労ビザ制度、教育商品、良好な学習環境など、大学の能力、研究インフラと国際的な開放性を強化することにより、国の研究システムの魅力を高めることに注力している。また、データなどによれば、税制上の優遇措置も外国のR&D拠点を誘致しようとする各国の競争に繋がっていることが明らかである。

最近の技術の発展は地球規模の問題(気候変動、高齢化社会、食料安全保障)や生産性の伸び(新たな製造プロセスなど)に焦点を合わせており、環境や社会への関心は科学・技術・産業(STI)政策に特別な課題と機会を提起している。

これらの課題に対処する必要から、STI政策は使命志向性(mission‑oriented)を強めている。例えば、危機後に所得格差が拡大しているのを受けて、「卓越の島(islands of excellence)」(最優秀の大学、企業、都市)から得られる恩恵がさほど恵まれていない企業や大学、地域にも行き渡るよう、イノベーションが利用されている。様々な利害関係者や政策領域(規制、租税、教育など)間のトレードオフ、相乗効果に照らして、イノベーション政策へのより体系的なアプローチが開発されている。

これらの課題に対処するには、技術の飛躍的進歩や既存の技術と新規の技術的解決策の迅速な普及、政策、規制、行動などといった制度レベルの革新が必要となる。例えば、高齢化社会のためのイノベーションは新たな成長産業をもたらす可能性があるが、資金不足や政策一貫性の欠如に苦しんでいる。様々な研究分野を動員し、インターネットやITによりもたらされる学際的研究の変化を活用できるようにする必要がある。

この点において、IT、バイオ、ナノ、認知科学の収斂は「次代の産業革命」をもたらす可能性を秘めており、すでに、こうした進化の一環としてサービス分野のイノベーションが増えていることは、各国の競争力に影響を及ぼしつつある。

企業R&D

企業R&D支出は2011年以降、年率3%という経済危機前の伸び率を取り戻しているが、これは2009~10年の削減前より低い水準からの回復である。企業R&Dの伸び率の見通しが実物資産向け投資の伸び率の見通しより高いのは、企業が、需要の低迷を見越して、製品やプロセスを改善しているものの、生産能力の拡大には動いていないためである。

企業R&Dへの大規模な公的支援は、危機の影響を和らげた。企業R&D向け公的支援は、主にR&D関連の減税幅拡大により、10年前を大幅に上回る水準を維持している。直接的な助成と減税を合わせると各国の企業R&D支出の10~20%を占めており、中にはこの比率がもっと高い国もある。間接的な支援も、データを報告している32か国中13か国で、直接的な支援と同水準か、それを上回っている。しかし、公的債務の急増を受けて、多くの国の政府がイノベーション関連の支出を削減、または、既存政策のより体系的な評価、既存プログラムのスリム化、重複している政策の削減を実施している。

企業R&Dへの直接的な公的助成は競争的な補助金や契約を通じて供与されることが多くなっているが、その一方で、負債による資金調達(融資、融資保証)や自己資本調達(ベンチャーキャピタル、投資信託を対象とした投資信託(funds of funds))もより一般化してきている。多くの国が、「新産業政策」の一環として、特定の産業や企業カテゴリー(特に中小企業)に資金助成を行っている。

多くの国において、信用状態は特に中小企業にとって厳しい状況(高めの金利、短い期日、厳しい担保要件)にある。米国ではベンチャーキャピタル投資が経済危機前の水準に完全に回復しているのに対し、欧州のベンチャーキャピタル投資は大幅に下回っている。そのため、欧州各国政府は資金助成を増やしているほか、新たな資金源(クラウド・ファンディングその他の形態による銀行に頼らない資金調達)も急速に普及している。

公的R&D

公的R&Dは、イノベーション・システムにおいて極めて重要な役割を果たす。大学や公的研究機関の公的R&D支出は、政府の持続的なR&D重視により、危機の間もよく持ちこたえ、高等教育機関のR&D支出が公的R&D支出に占める比率は2000年の57%から2012年には61%へと上昇している。

卓越性や妥当性を強化するため、公的研究は、厳しい財政状況などにより、競争ベースで行われる場合が多いプロジェクト別の資金調達が増え、研究機関ベースの研究資金配分は減っている。大半の国々は、研究機関ベースとプロジェクト・ベースの資金調達の仕組みを組み合わせた研究力強化の取り組みを実施し、優れた研究を奨励するとともに、課題主導型の研究を支援している。

知識移転、特に知識の商業利用が、今では公的研究の中心的な目標となっている。政策取り組みは川上の科学(upstream science)に市場の視点を導入している(R&Dに関する産学協力など)。最近では、より統合的かつ戦略的な政策で、技術移転オフィスの強化、専門職化や学生による商業化への関与などの形で、公的資金を受けた研究成果の商業化に向けた川下の支援を奨励している。

「オープン・サイエンス」の進展に合わせ、どのように公的研究を助成し、研究を実施し、研究成果を利用し、研究成果の公開と保護を行うか、また、どのように科学と社会の相互作用を形成するかを決定するための新たな政策アプローチが必要となる。

© OECD

本要約はOECDの公式翻訳ではありません。

本要約の転載は、OECDの著作権と原書名を明記することを条件に許可されます。

多言語版要約は、英語とフランス語で発表されたOECD出版物の抄録を 翻訳したものです。

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