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OECD Multilingual Summaries

Taxing Energy Use 2019

Using Taxes for Climate Action

Summary in Japanese

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エネルギー利用への課税2019年版

気候対策への税制の活用

日本語要約

2018年、世界のエネルギー消費量とエネルギー関連の二酸化炭素(CO2)排出量は共に大幅に増加し、史上最高値を更新した。パリ協定の目標達成には排出量の大幅削減が必要であることから、これは懸念すべき状況である。

エネルギー課税制度を適切に設計すれば、国民や投資家が環境汚染の原因となるエネルギー源ではなくクリーンエネルギー源を選択するよう促すことができる。燃料税や炭素税は、気候変動を制限する簡便で費用対効果の高い手段だが、カーボンプライシング(炭素価格付け)政策にはしばしば困難が伴うことも分かっている。エネルギー利用税は、都市化が進む世界では切実な政策課題となっている局地汚染による健康被害を制限することにも有益である。

「エネルギー利用への課税(TEU)2019年版」は、エネルギー税や炭素税の導入における各国の立ち位置を俯瞰し、進捗状況を確認するとともに、各国政府の取り組みをいかに改善できるかについて実行可能な提言を行うものである。この報告書では、OECD加盟国およびG20諸国、ならびに国際航空・海運分野のエネルギー税について独自の新しいデータを提示する。税率と課税範囲は、国、業種、エネルギー源、税の種類ごとに詳しく記載した。共通の手法を用いることで、各国の税率や税制の比較可能性を十分に確保し、また、サマリー指標で国別比較の便宜を図っている。

CO2 1トン当たり30ユーロという低価格の炭素ベンチマークと炭素価格シグナルを比較しただけでも、危険な気候変動を抑制できるだけのエネルギー価格や炭素価格を支払っていないエネルギー利用者が多過ぎることが分かる。このベンチマークには、CO2排出量1トンにつき生じる現時点での気候変動被害は反映されにくく、パリ協定の目標を達成するには十分ではないと思われる。汚染をもたらすエネルギー源に税制が十分対応していないという証左もある。特に石炭は、気候や大気汚染への有害な影響があるにもかかわらず、課税率は比較的低いかゼロである。

炭素に有効な価格を付ける政策手段は、燃料税や炭素税だけではない。排出権取引制度も同様にエネルギー利用からのCO2排出量を対象としており、他の温室効果ガス排出量やさまざまな排出源を対象として含むこともある。排出権取引制度は、炭素税と同じくらい効果的、効率的になり得る。OECDの報告書、Effective Carbon Ratesで分析した排出権取引制度は、OECD加盟国およびG20諸国の炭素価格シグナルのおよそ6%を占めている。

税制や排出権取引制度を通じて、どの程度炭素排出量に価格付けをするかという方針は、国によって大きく異なる。たとえば、欧州連合の排出権取引制度は、発電事業、産業、欧州域内航空事業からの排出量の大部分を対象としている。本報告書執筆の時点で、割当量はCO2 1トン当たりおよそ25ユーロで取引されていた。全体的にみて、排出権取引制度の効果を考慮しても、炭素価格シグナルは未だ不十分である。

主な結論

炭素価格シグナルは弱すぎる

  • エネルギー関連のCO2排出量の85%が道路部門以外で発生している。税が価格付けしているのは、こうした排出量の18%にとどまっている。価格シグナルはCO2 1トン当たり30ユーロが下限で、非道路部門の排出量のわずか3%にしか適用されていない。
  • 非道路部門の排出量に平均してCO2 1トン当たり30ユーロ以上を課税しているのは、デンマーク、オランダ、ノルウェー、スイスの4か国のみである。排出量取引制度を上記の分析に含めていたら、暗澹たる見通しも少しはましになっていたであろう。しかし、排出権取引制度が存在するところでは、排出権は通常、CO2 1トン当たり30ユーロ未満で取引されており、排出量のごく一部しか対象としていない。
  • 税による炭素価格シグナルの拡大適用には、ほとんど進捗がみられない。具体的には、2015年以降、非道路部門の排出量に対する平均炭素実効税率がCO2 1トン当たり10ユーロ以上引き上げられたのは、デンマーク、オランダ、スイスの3か国しかない。
  • 国際航空・海運からの排出量にはまったく課税されていない。国内航空および国内海運で使用する燃料は課税されることもあるが、低価格帯の炭素ベンチマークにはまれにしか反映されない。こうした排出量のほとんどは、排出権取引制度の対象にもなっていない。
  • 炭素価格シグナルの効果が高いのは道路輸送であり、燃料税が比較的高いことがその大きな理由である。しかし、道路輸送では非気候関連の外部費用も比較的高い(局地的な大気汚染の影響など)。CO2 1トン当たり30ユーロ以上で道路排出量に課税していないのは、ブラジル、インドネシア、ロシアの3か国のみであった。
  • 全体的にみて、各種燃料、とりわけ化石燃料の中で最大の環境汚染源である石炭には、税を利用した有意義な炭素の価格付けがなされていない。石炭に対する平均実効炭素税率は、OECD加盟国とパートナー諸国44カ国全体でゼロに近い。排出権取引制度を上記の分析に含めたとしても、石炭の炭素価格シグナルはほぼ各地でやはり非常に低かったであろう。

燃料税は明確な炭素税として引き続き優勢

  • 全44か国で効果的な炭素価格設定を牽引しているのは、道路部門の燃料税である。
  • 非道路部門では、明確な炭素税が比較的重要な役割を果たす傾向がある。

すべてのエネルギー税が排出量の大幅削減を促すわけではない

  • 電気税は、通常は各種エネルギー源の間で差異を生じないが、クリーンな電源を優先できないことが多く、電化による排出量の大幅削減に水を差しかねない。
  • それでも、多くの国が水力、風力、太陽光などの低汚染エネルギー源よりも可燃性燃料に多く課税することで、クリーンエネルギー源への切り替えを奨励している。
  • 可燃性燃料に比較的高い税率を課している国では、エネルギー利用の炭素集約度が低くなる傾向がある。

施策の意味合い

  • 炭素価格シグナルを強化すれば、国民や企業に自身の行動の気候コストを考慮するよう促すことになる。その結果、炭素集約度の高い財・サービスの消費を減らし、次第に低炭素またはゼロ炭素の活動に移行するであろう。また、クリーンテクノロジー企業は、汚染排出企業に対する競争力の向上を認識するだろう。石炭火力発電所などの炭素集約度の高い資産への投資を抑制するのも、将来的な調整コスト増加のリスクを軽減することになる。
  • 炭素価格の引き上げは、現在最も低いところから始めるのが理に適っている。石炭は特に格好の例である。気候や大気汚染への有害な影響があるにもかかわらず、現在、すべてのエネルギー利用者の間で最低税率の一つであるからだ。一方、国際航空・海運の税率は現在ゼロであり、全利用者の間でもゼロに近いか非常に低水準となっている国が複数存在する。
  • 全体的にみて、ほとんどの国が水力、風力、太陽光などのクリーンエネルギー源よりも可燃性燃料への課税を強化して、クリーンエネルギーへの切り替えを奨励している。税収中立の電気税改革を排出量削減のインセンティブ強化につなげられる国も一部存在する。

© OECD

本要約はOECDの公式翻訳ではありません。

本要約の転載は、OECDの著作権と原書名を明記することを条件に許可されます。

多言語版要約は、英語とフランス語で発表されたOECD出版物の抄録を 翻訳したものです。

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© OECD (2019), Taxing Energy Use 2019: Using Taxes for Climate Action, OECD Publishing.
doi: 10.1787/058ca239-en

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